Wednesday 31 May 2017

李千娜という歌手/女優、そしてChloe

先日、吳慷仁のことを書いたのだが、一つ書き忘れたことを思い出した。彼の出演作で「迷徒-Chloe-」(2016年、監督:曾敬懿)というドラマも結構おもしろかった。主演は最近話題になった「通靈少女」にも出演、主題歌を歌っていた李千娜。さらに劉以豪も登場。吳慷仁は李千娜演じるChloeの昔の恋人役。

番組プロデューサーであるChloeはバンドマンのRex(劉以豪)の演奏に惚れ込み、彼を起用してミュージシャンの生き方に迫る音楽番組を製作しようとする。しかし上司は名もない彼を取り上げることに反対。話題性を理由に有名なピアニスト・汪士棋(吳慷仁)を呼び、Rexと共演させることに。番組制作の過程で、RexとChloeは互いに好意を抱くようになるが、一方でChloeは汪士棋との間に過去のわだかまりを抱えたまま。それは次第にRexとの関係、さらに番組の進行自体にも支障をきたし始める。Chloeの心には罪にも似た重たい過去の記憶がのしかかっていた…

中国語で「第三者」とか「小三」というと、“浮気相手”やカップル、夫婦の間に割って入ろうとする“邪魔者”的な立ち位置の人を指す。Chloeと汪士棋が付き合っていた頃、汪には実は妻と子供がいた。奥さんから見ればChloeは「小三」だったわけだ。夫から別れを切り出された時、妻は憔悴して精神を病み、娘を残して自殺してしまう。Chloeはそのことで悔やみ、自分を責め続け、汪との関係も断ち切った。にも関わらず!未練タラタラの汪が番組に関わることになり、まだ気がある様子で絡んでくるし、Chloeはまだ癒えていない傷口に塩を塗られるような思い。そのせいでRexとのコミュニケーションもうまくいかない。

つまりは、不倫をしてその行為によって人を殺してしまったという罪の意識、そのような行為をした自分にはもはや愛情を求める資格などないという臆病な思い込み(正確には、おそらくそう自分に言い聞かせることで、罪の重さを軽くしようとしている)に苛まれて道を見失っている(「迷徒」)女性Chloeの物語だ。そしてそんな彼女が過去を乗り越えることができるのか、どんな答えを出すのか、というのが最終的な見どころになってくる。

そんなChloeを演じる李千娜の経歴が興味深い。父親はドラマー、母親は歌手、祖母は歌仔戲、叔父は布袋戲をやっている芸能一家に生まれる。両親の離婚後、父と共に南部に移り住み、父は南投で歌劇団をしていた(娘の名前を歌劇団の名前にしたらしく、李千娜は子供のころ恥ずかしくて仕方がなかったとのこと)。素質があったみたいだが、テレビのコンテスト形式の歌番組に素人として参加して、そこから歌手デビューを果たす。その後は映画『茱麗葉Juliets』に出演したことで、歌手としてよりも女優として一躍有名になる。今では歌手も女優もこなす。

「歌手である私は李千娜自身で、私の人生の物語を語っています。俳優である私は違う人生を体験していて、他人の人生の物語を演じているんです。」(元記事リンク

李千娜の曲を聴いていると、昔のも最近のも、浮気とか友達に恋人を取られるとか、「小三」に関わる歌詞が多いような気がする。下世話なことだが、過去に恋人に裏切られたとか、とりわけ彼女の生き方や考え方を形づける大きな経験があったのかなと憶測してしまう。あるいはレコード会社の売り出し方?

MVに吳慷仁が出ている曲《說實話(本当のこと)》
このMVのストーリーも同様で、恋人と友人が浮気していたことを知って「本当のことを話すのがそんなに難しい?」と恋人に詰め寄るシーンがある。自分にも他人にも正直でありたいという彼女の切実な思いに溢れた曲だ。(個人的には恋をしてしまえば正直もへったくれもないという考え方ですが。)

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