Monday 24 March 2014

行政院占拠に関する記録など

昨夜は本当に長い夜だった。台湾に来て半年経つが、こんなに長いと感じた夜はなかったかもしれない。昨日の夜見聞きしたものの大雑把な記録を残すなり。

日本のメディアではいくらなんでももう報じられていると思うが、昨夜は学生たちが台湾の行政院(内閣)建物を占拠、情報を聞きつけた市民が集まってきて支援、一時は物資も運び込まれ立法院(国会)に続いて抗議拠点になるかとも思えた。学生たちが突入を始めてからしばらく、緊迫感と混乱が尋常ではなく、正門に人が押し寄せる状態。おそらくは突入の際に負傷した人を救助するため、救急車がやってくるが、そこでは冷静に皆道を空けるというシーンも。

行政院を囲む主要な門は正面に二つ、後方に一つ、建物向かって右側に一つ。正面と後方は広い道路に面している。先に正門で、その後は後方で、増員された警官と両手を挙げて非暴力に訴えながら立ち向かう市民とが幾度となく押し合いになった。あとで知ったが、主にマイクを握っていたのは清華大学の魏揚という学生(実は台湾の著名なプロレタリア文学作家・楊逵のひ孫さん!)で、場の秩序を冷静に保とうと「坐下!(座って!)」等の掛け声を、また救急車や物資班の往来を円滑にする交通整備のため、ひっきりなしに皆に呼びかけていた。

しかし夜中を回るころには、建物上階に見えた学生の姿もすべて消え、紺の制服を着た警官の姿に変わっていた。それでも正門側の広場にいる市民の間ではまだ少し余裕さが漂う。あとで後方にいた友人(間一髪捕まらず)の話を聞く限り、正面側とは雰囲気も状況もかなり違っていたよう。余談だが行政院の向かって右側には会議室やVIPルームとして使われている建物があり、普段一般人が入ることのできない所で一時休息をとる市民の姿もうかがえた。

だが警察は着々と鎮圧に向けて動き始めていた。後方から退却してきた友人の知らせが届く。後方の門では衝突が始まり、警官が市民を殴打、連行しているとのこと。ただこの点については市民の方が先に殴りかかっていたという話もあって、衝突の現場は直接見ていないので何とも言えないが、結果として暴力行使に至ったことは確か。このころすでに行政院建物内部の学生はすべて捕まえられていた。民進党党首が駆けつけ演説を行うが、所詮この人たちは警察を、国民党を止められない。その場にいた市民からの、攻撃をやめるよう国民党にプレッシャーをかけてほしいとの訴えにも曖昧で中身のない応答しかしなかった。

いよいよ後方から正面の広場に向かって警官が、腕を固く組み合った市民の一人ずつを前列からひっぺがしていき(ひっぺがしていき?)、正門前の警官も二つの正門を封鎖しようと動き始める。正門前の道路も危ないという情報が入り、行政院から離れることになったが、その後の行方は予想できた。

行政院占拠に踏み切った学生の行動をきっかけに、今回の抗議活動は一層注目を浴びることになったけど、負傷者がかなり出て、警官に殴られた市民の血だらけの写真や動画が流れたことで、「こんな暴力的な抗議は望んでなかった」という声もある。中には「民主を守っているのは警察の方」という意見まで(50代で私と同い年くらいの娘さんがいる女性。ただの年代ギャップが意見の原因とは思えない。)、私のフェイスブックのタイムラインには流れてきた。これを見た時は正直、怒りを通り越して涙が出た(ああこれも余談)。現場の様子や雰囲気はすべて伝えることができない。だが丸腰の市民に棍棒や盾を持った警官が掴み掛ればどうなるかということくらい想像がつくだろう。そもそも、学生たちがどういう目的で、何のために、自らの危険を冒してまで今回の行動をとったのか、この人たちはちゃんと理解しているのか?

ちょっと感情的になってしまった。兎に角、台湾世論が必ずしも昨日の行政院占拠という行動に賛成を示しているわけではない。これは今後の抗議活動に吉と出るか凶と出るか微妙なところだが、授業ボイコットを決定した大学もあり、大学全体として学生を支持しようというところも出てきた。はっきり言ってこの先どうなるのかがまだ見えてこない。行政院で場の指揮をとっていた魏揚さんは現在拘留されている。彼の曽祖父である楊逵は日本植民地時代に台湾で生まれ、作家として活動しながら労働者運動、農民運動に参与していた人物。植民地時代には何度も捕まっていて、戦後の二二八事件の際にも逮捕され、戒厳令下では思想犯として緑島の刑務所に投獄された。まあこれは重要なことじゃないんだが、今朝方これを知った時にものすごく心が震えた。

24日現在で立法院長の王金平は、今回の争議の焦点は「サービス貿易協定」の審議手順であり、学生たちの関心もそこに向けられているということを受け止めた上で、与野党による協議を進めていくと示してはいる。だが今日午後に行われた協議では国民党側は欠席。長期戦のように見えるが、刻一刻と少しずつ状況が動きつつあるので、目が離せない。うかうか寝てられない。でも寝たい。

気になっているのは今回の立法院・行政院の占拠および抗議運動を中心となって進めている二つの団体について。立法院の中にいるのは「黑色島國青年陣線」という学生運動団体。今回の「サービス貿易協定」に反対するため結成された。新自由主義を反対、経済貿易のグローバリズムに対する危惧、環境汚染への問題意識があり、人権、民主、自由の発展を主張している。もう一つ、立法院の建物の外で場の整備を主導しているのが「公民1985行動聯盟」という民間組織。昨年7月に、退役間近の青年が死亡する事件が起こり、真相の追求と公開を求めてこの組織が結成された。その結果、青年は軍隊内で虐待を受けて死亡したことが判明した。どちらも「民主」や「正義」を訴えている点では共通している団体で、今回は協力体制を築いているよう。1985について、立法院周辺の秩序整備が厳格すぎてネットでは「警官以上に警官みたい」と風刺されていたり、抗議拠点周辺での移動や行動が制限されることに不満を持ったりする人もいる。これからさらに長期化するのであれば、こういう些細なことでごたごたして抗議活動の参加者たちの連帯が崩れるのはよくないよなあと、少し客観的に眺めている。

いずれにせよ、今回の台湾の学生運動がもつ意義を考えると、これは自分にとってもはや他人事ではない。私は台湾の歴史に触れることで、民主主義の重みを学んできた。台湾の民主主義をかけた闘いを、見過ごしてはいられない。それに日本だって同じようなことがすでに起こったんだから。その時私は台湾にいて、それは理由にできないかもしれないけど、何もすることができなかった。悔しかった。うん、ちょっと眠くて何書いてるか分からんくなってきたんでそろそろ終わりにします。

Friday 21 March 2014

立法院前、占拠二日目。

昨夜の立法院前、通りいっぱい人で埋め尽くされ「拒絕服貿,捍衛民主(サービス貿易協定を拒絶、民主を守り抜け)」、「退回服貿,重啟談判(協定を差し戻し、協議をやり直せ)」の掛け声が繰り返される。その言葉が簡潔に表しているように、ここにいる人びとは単に今回の協定に反対しているだけでなく、本来なすべき立法院での審議の過程を経ずに協定が通されてしまったことを、三権分立を揺るがし民主主義を軽視する国民党の横暴として、抗議をしている。一部台湾の新聞の社説が指摘するように、協定自体への反対主張(「反服貿」)と、正当な手順を怠った手段に対する抗議主張(「反黑箱」)とが混雑しているしているとはいえ、両者の問題意識の根幹は共通している。

ネットでは日本人ユーザーが「中国に台湾を乗っ取られる」などという言い方をしているが、この一件は台湾/中国の二項対立に単純化して処理できる問題ではない。これはあくまで表層的な争点でしかなく、相手が長年台湾の主権を脅かしてきた存在であるが故に分かりやすく浮上しているだけだ。自由化適用枠に指定されているサービス業の中には道路、建設、電力、通信、ダムなど、インフラの大部分が含まれている他、私の友人たちが特に憂慮しているのはテレビ、出版業など、自分たちの日々の生活に密接で且つ「言論の自由」に関わる分野の自由化についてだ。中国の出版社が売る本や雑誌は安価だが、北京政府の検閲を通して初めて出版される。つまり彼らにとって都合の悪い内容は削除、修正。そして言論統制の影響を受け、信頼性に欠けた書籍が台湾に流入する。小規模な台湾の出版社は打撃を受け、台湾にとっては次第に確かな知識・情報が得られない状況に陥る恐れがあるだろう。そもそも、企業進出の際に中国側が利用できる銀行は複数あるにも関わらず、台湾側はひとつの銀行だけに制限されているなど不公平な点がある上、中国の大企業と共に大量の労働者が入ってくれば、台湾でサービス業に従事する人口過半数の労働者が生活の危機に立たされる。自由化は資本の流動を盛んにするが、それで得をするのは台湾にせよ中国にせよ、一握りの大企業。ここ数年の経済政策ですでに台湾企業の中国進出は増えたが「給料は増えるどころか減ってきた」というのが働く人の実感。多くの人が指摘していることでここで再度言う必要もないかと思うけれども、この協定が改善しようとしているのは資本の流動であって働く人の生活や賃金ではない。メディアは「学生が立法院を占拠」としか取り上げないが、確かに立法院の周囲にも学生が大勢駆けつけているとはいえ、仕事を終えたサラリーマン、家族連れ、車いすのおじいちゃんおばあちゃんまで(『台湾人四百年史』、『民主主義』の著者、史明の姿も!)、色んな人が入れ替わり立ち代わり(もちろん、何時間も座り込んでいる人もいる)、自分の生活に関わる重大な事柄が、たった三十秒で決められてしまったことに抗議しようと集まっている。

台湾の今回の出来事が、私には他人事に思えない。馬英九のやり方は昨年12月の特定秘密保護法案の一件にもどこか似通っている。日本の企業もこれに乗じて益々中国進出。今夜から明日にかけてどうなるか…